クロガネ・ジェネシス

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第一章 エルマ神殿の依頼

 

アーネスカ再び



「此度《こたび》の依頼、引き受けてくださったことを心より感謝いたします」

 エルマ神殿最高司祭、エミリアス司祭はそういって俺に深く頭を下げた。

 エミリアス司祭は初老の女性だった。しかし、年老いてもその表情には威厳があり、芯の強い人物であることをうかがわせる。

 ここはエルマ神殿にある司祭室という部屋だ。その名の通り最高司祭の名を関する人物のいわば書斎とでも言うべき部屋だ。

 俺と火乃木はそのエミリアス最高司祭が座る椅子とテーブルを挟んだ向かいに立っている。

 そして俺達のすぐ後ろにはライカと言うエルマの騎士が一人立っている。

 ブリリアントブルーを基調とした法衣を身にまとい、同じ色の頭巾を目深にかぶっている。暑くないのだろうか? と言う質問は不粋だろう。それが正装なのだから。

 胸からは蝶の形を象《かたど》った銀のペンダントがのぞく。

 頭巾のせいで髪の毛の状態は良くわからないが、丸メガネをかけており、穏やかな表情をしている。

 彼女もエルマの騎士の一人なのだと言う。

 本来このエルマ神殿と言うところは男子禁制にして女子の聖域である。

 男は神父以外は基本的に入れないのだが、今回は特例と言うことで俺はエルマ神殿に入ることを許可された。

 俺がアスクレーターでエルマ神殿の依頼を受けてやってきたものであると言うことを信用してもらったからこそ、俺は今ここにいることが出来るわけだ。

 実際エルマ神殿に入る時だって、入り口にいた女性騎士に訪問の理由を尋ねられ、依頼書を見せて、それをエミリアス最高司祭の元へ持って行き、事実確認をした上でやっと入ることが出来たのだ。これだけでも十分はかかっている。

 そして、俺と火乃木はエミリアス最高司祭への挨拶を兼ねて、このエルマ神殿で起こっていることを聞こうと対峙しているわけだ。

「失礼を承知でお聞きしますが、エルマ神殿については何かご存知ですか?」

「お恥ずかしながら……何も。旅をしている身である故《ゆえ》……。ルーセリアに来たのも四日ほど前なので」

「そうですか。それではまずエルマ神殿とエルマの騎士について説明しましょう」

 正直長話を聞くのは好きじゃないんだが、今後ここでエルマの騎士と神殿についての知識を少しでも得ていたほうがいいだろう。おそらく、一日や二日で終わるような依頼とも思えないからな。

「世間はいまだ男尊女卑の考え方が根強く存在します。以前私はこのルーセリアの騎士の一人として名をはせた時代がありましてね、女性でも騎士として戦える力があることを世間に認めさせることが出来ました。そして、女性も騎士として戦う力があることを世に知らしめ、男尊女卑の考え方を世間から無くすために設立されたのが、ここエルマ神殿なのです。そしてエルマ神殿にて養成された騎士をエルマの騎士といいます」

 男女差別撤廃のための運動の一つがエルマの騎士と言うわけか。世間に女性の社会進出を認めさせるためのエルマ神殿。なるほどね。俺も基本は男女差別反対だし。

「エルマ神殿設立の意図は女性の社会進出を手助けすることおよび、エルマの騎士とは女性の騎士をさす言葉である。そう理解していただければ幸いです」

「そうですね」

 正直なことを言うとここで養成された女性騎士、すなわちエルマの騎士はその後どこで働くのかとか、そもそもエルマってなに? って言う疑問もあったが、そのあたりの質問は不粋だろうし、知る必要もないか。

 エルマってのはおそらくこのエルマ神殿における信仰対象としている神の名前だろう。多分。

「では次に、現在このエルマ神殿内で何が起こっているのかを説明します」

「お願いします」

 エミリアス最高司祭はポツポツと語りだした。

「今から二週間ほど前になるのですが……。エルマの騎士警備部が神殿内にて夜の巡回をしていたところ、大聖堂にてなにやら物音がしたから鍵を開けて中を見てみたら……」

 エルマの騎士警備部……。そんなものまであるのか。

「大聖堂内に大柄な男が何かを探しているように大聖堂内部を荒らしまわっていたらしいのです。そのとき犯人と思しき男は信じられないような身体能力で大聖堂から姿を消したんだとか……」

 事件は大聖堂で起こり、そこで不振人物を発見した。しかし、逃げられてしまったと。

 空き巣とか夜中に誰かの家に忍び込んで金品を強奪するなんて事件はそんなに珍しいことではない。

 それだったら警備を強化するなり魔術による結界で侵入を一切許さないようにすればいいだけのこと。わざわざ魔術師ギルドで誰が受けるかもわからないような依頼を出す必要はないだろう。

 つまり理由があるのだ。俺みたいに得たいの知れない人間に協力してでも解決したい理由。そしてエルマ神殿の人間だけでは解決できない理由が。

「私達も最初はそう思い警備の強化、魔術による結界によって賊の侵入を阻めるものと思ったのですが……」

 エミリアス司祭の表情が曇る。

「賊の侵入そのものは確かになくなりました。しかし、それから二日とたたぬ間に大聖堂内部は再び荒らされていたのです。その日からというもの、毎晩のように……少なくとも二日に一回は何者かが大聖堂内部を荒らすと言う現象が発生し、内部の犯行ではないかと言う話にまでのぼってしまって……」

 エミリアス司祭は一度言葉を区切り、ほんの少し間をおいて続ける。

 俺と火乃木はそれを黙って聞く。

「警備をしているものの中にスパイがいるとか、いないとかいう騒ぎが起こり始めて、エルマの騎士および騎士見習いの者達の間で、侵入者はエルマ神殿内にいる人間の仕業とする者達と、純粋に侵入者だと言う意見で派閥がわかれ、半ば抗争と化しているのです」

 まあ、そうなるのもわからなくはない。エルマ神殿内への侵入はそう容易ではないはずだ。

 神殿と言うくらいだから夜は結界ぐらいはって神殿への侵入など許さないだろうし、神殿内も警備が行き届いているなら、内部の犯行と考えることも十分考えられることだ。

「このままでは犯人を捕らえることかなわず、エルマ神殿内でも疑心暗鬼が進み、エルマの騎士としての精神を養うことも、出来なくなってしまう。そんな状況を打開するために、私は魔術師ギルドに恥をしのんで依頼したのです。もはやエルマ神殿内部で解決するには疑心暗鬼にとらわれた彼女達ではどうにもならないと判断したからです」

 疑心暗鬼にとらわれた人間が協力なんて出来るわけないもんな。

「お話はわかりました。彼女達の代わりに、俺達がその犯人を見つける。そうなればエルマの騎士達と騎士見習いの子達も、お互いを疑う心がなくなるため今後の養成に支障がなくなる。そのために魔術師ギルドに依頼を出した……。そういったところですか」

「そうです。そのために貴方達に一刻も早くエルマ神殿に侵入するものを排除してほしいのです」

 まあ俺達は成功報酬の金貨九十枚さえ手に入ればいいわけだし。そのために今回の依頼をこなさなくちゃいけないわけだから。断る理由はないな。

「わかりました。ご期待に添えて見せましょう」

 依頼を受けた以上はやる以外にない。俺はエミリアス司祭に対しはっきりそう言った。

「ありがとうございます。あなた方がここで依頼を達成していただくまでの間、エルマ神殿内の空き部屋を一つずつ使っていただきます。ライカさん」

「はい」

 俺と火乃木の後ろに控えていた、ライカと呼ばれたエルマの騎士は穏やかな表情を崩さずに返事をする。

「鉄さんと白銀さんの二人をお部屋へ」

「かしこまりました」

 俺と火乃木はライカさんに連れられ、司祭室を後にした。



  神殿の裏手にある巨大な宿舎。まるでお金持ちの人間しか住めないような立派な屋敷。俺と火乃木と、案内役のライカさんはその廊下を歩いていた。それはエルマの騎士および、エルマの騎士見習いの女性達が寝床とする寄宿舎だった。

 じゅうたんの敷かれた廊下はかなり長く、エルマ神殿に勤める人間の人口の多さを感じさせた。

「は、はぅ〜……緊張した〜」

「緊張解くのはまだはえぇって、目の前にライカさんがいるんだからよ」

 ってかそういう俺も何気に口調がいつものに戻ってるし……。

「いえ、お二方ともお気になさらずに……。私《わたくし》はお二方を部屋へご案内するだけなので、特別緊張なさる必要はございませんよ」

 その心遣いは嬉しい。これなら軽い質問は出来るかな?

「ライカさん」

「はい、なんでしょう?」

「アーネスカ・グリネイドってこの神殿にいますか?」

「……え?」

 俺の質問に火乃木は少し驚いた表情を見せた。

「はい、おりますよ。お知り合いなのですか?」

「ええ、昨日知り合いましてね」

「昨日……ですか?」

 後ろからついてってるだけの俺等にはわからないが、ライカさんの表情が疑問に満ちたものに変わったような気がした。

「と言うことは昨日アーネスカが話していたのは貴方方のことだったんですね〜」

「ひょっとして……」

 俺は即座に理解した。おそらく昨日のことをアーネスカはこの人に話したのだと。

「悪漢を一撃の拳の下《もと》に沈め、か弱い少女を救った、トイレより現れし正義の味方……」

 な!? またトイレかよ! なんでここに来てまでトイレの味方みたいなこといわれにゃあならんのだ!

「……忘れてください」

 俺はそういうしかなかった。女のコミュニティは恐ろしい……。どうでもいいことばっかり尾ひれとしてつけてきやがる。

「レイちゃん……もうトイレのことは語らないほうがいいんじゃないの?」

「そうする……」

 とりあえずこれ以上トイレがどうたらこうたらと言われるの勘弁してほしいな。いや、あんなこと言った俺が悪いんだけどさ……。

「トイレのことはおいておきまして……」

 そう前置きをしてライカさんは続ける。

「アーネスカから見てもあなた様の立ち振る舞いは堂々としていて格好よかったと聞いております。もしかしたら、このエルマ神殿内であなた様に惚れてしまう方がいるかもしれませんね」

 え? なに? それはほめられてるの? なんとも微妙な言い回しだ。

「え〜そんなのダメ! ダメダメダメ!!」

 ライカさんが言った直後、火乃木は全力でそれを否定しようと声を張り上げた。

「何がダメなんだよ?」

 火乃木の言っていることの意味は理解できるが、なんでそんなことを突然言い出すのかは理解できない。

「だって! レイちゃんに惚れちゃったら、面倒見るの大変だし、背はちっちゃいから周りから変な目で見られるかもしれないし……」

 おいコラ……何を言ってるんだ……! 大体三センチしか違わんだろうが!

「ウフフフ……微笑ましいですね〜」

 この人はこの人で何をいってるんだ……。この光景が微笑ましいといえるのだろうか?

 そうしてくだらない会話を差し挟みつつ廊下を歩いていく。

 そして。

「コホンッ。たどり着きました」

 ライカさんが足を止め、真面目な口調で言いながら足を止めた。そして俺と火乃木の方に振り向く。

「お二方のお部屋はこちらの二部屋になります」

 そう促されて見た先には二つの扉が並んでいた。

「お二方がどちらをご利用なされてもかまいません。部屋の間取りなどはどちらの部屋も同じです。何かありましたら、私の方に連絡をくださりますようお願いいたします。可能な限り迅速に対応させていただきます」

「ありがとう。ライカさん」

「あ、ありがとうございました!」

 俺と火乃木はわざわざ部屋まで案内してくれたライカさんに礼を言う。

「あら、お礼だなんて、わざわざありがとうございます」

 ライカさんは一礼して、真面目な顔のままさらに口を開いた。

「ところで鉄様。先ほど、エミリアス最高司祭様からもおっしゃったように、今この神殿内部の人間は疑心暗鬼にとらわれております。故《ゆえ》に、貴方様に対する失礼な言動を耳に入れてしまう可能性もあるでしょう。最悪の場合貴方様を侵入者と見なす可能性さえあります」

 そんな段階まで疑心暗鬼が進んでるのか……。依頼をこなすのも難しいかもな、こりゃ。

「私達のほうで、神殿内部の人間全てに貴方様の情報、つまりエルマ神殿の侵入者排除の協力者として貴方様方がエルマ神殿に滞在していることは伝えて起きますが、気が立っている人間も多いので、行動には注意してください」

「わかりました」

 それくらいは覚悟の上だ。さっきのエミリアス司祭の言葉を聞くに、どの人間も心中穏やかではないだろうなと言う予想はしていたからな。

「では、私はこれにて失礼いたします」

 ライカさんはそういい残し、長い廊下を再び歩いていった。

「どっちの部屋にする?」

 ライカさんの姿が見えなくなった頃を見計らい、火乃木は言った。

「どっちでもいいだろ」

「まあどっちだからって何が変わるわけでもないしね」

「そういうこと」

「じゃあさ、これからどうするの?」

「しばらくはここに泊まる事になるだろうから、昨日まで使ってた宿から、こっちに荷物を全部持ってこようと思う。まあ大した量じゃないけどな」

「じゃあ、僕も行くよ」

「元々連れてくつもりだ」

「あそ」



  その日の夕方。

 俺は神殿の外側の壁に宿から持ってきた細長い紙切れを貼り付けていた。と言ってもただの紙切れではない。天乃羽々羅《あまのはばら》と言う東の国に伝わるお札だ。 貼り付ける箇所は四箇所。神殿の東西南北の先端に一枚ずつだ。

 これはある一定範囲《エリア》内、すなわちこのお札が貼られている四方に囲まれた範囲《エリア》内に存在する人間の魔力とそれ以外の魔力を感知するためのものだ。

 わかりやすく言えば魔力を色で判別することが出来るのだ。人間の魔力であれば青色、それ以外の存在……例えば魔獣と呼ばれる獣の魔力が赤色とかいった具合に。

 人間の魔力は通常目に見えることはない。しかし、これを使えば術者である俺にだけは魔力と言うものを目で見ることが出来る。

 侵入者が人間ではないと言う確固たる証拠は今のところ存在しない。だが、何かしら対策を早い段階からとっておくほうがよいだろう。その一つがこのお札なわけだ。

 そして、今最後の一枚を神殿の壁に貼り終えたところだった。

「ふ〜……」

 俺は額を流れる汗を右手首で拭《ぬぐ》った。この術の発動は結構面倒な手順を踏むからな。細長いお札に術発動のための呪文をわざわざ毛筆で書かなくてはならないからだ。

 お札とは言っても呪文を書かなければただの紙切れ同然なのだ。俺が使っているお札は筆で呪文を書くと言う作業を行う手間さえかければ様々な呪文を使うことが出来る優れものなのだ。

 旅をしている以上、特定の効果しか見込めない魔術よりは多少手間をかけても汎用《はんよう》性の高いものを選ぶべきでもある。

 さて、あとは実際に現場……つまり、大聖堂とやらを見ておくかな。

 何者かが何らかの目的で進入していると言うエルマ神殿の大聖堂。それを見ておかないことには対策の立てようもない。

 もっともエルマの騎士達でも有効な対策が立てられていないのに、俺の対策が役に立つかはちょっとばかし疑問でもあるがな。

「レイちゃん」

「ん?」

 その時、誰かが俺の名を呼んだ。まあ誰かと言っても俺のことをちゃん付けで呼ぶ奴なんて火乃木ぐらいしかいないがな。

 俺は声のしたほうを見た。

 そこにはブリリアントブルーの法衣を身にまとった人物が二人。

 火乃木ともう一人見知った顔の人物が一人。

「あ、あんたは……!」

 その人物は間違いなく、昨日昼飯時に悪漢から火乃木をかばってくれた女性、アーネスカ・グリネイドその人だった。

「ごきげんよう。鉄零児殿。エルマの騎士として、此度のエルマ神殿への侵入者排除の協力、感謝致します」

 アーネスカはかぶった頭巾をはずし、そして礼儀正しく一礼した。

「こっちが依頼を引き受けただけですから、そこまで礼儀正しくしていただかなくても結構ですよ」

 アーネスカが丁寧に挨拶したのに対し、俺も言葉遣いに気をつけながら返答する。

「それじゃあ、もう少しフランクに接するべきでしょうか?」

「こちらは構いませんよ。俺としてもそのほうが気が楽ですからね」

「そう? じゃあそうさせていただくわ」

 そういった瞬間から既に口調がフランクになっている。公私の使い分けが上手なのだろう。いや単になれなれしいだけと言う見方も出来るが。

 俺が発動した術。魔力を色で識別する術は正常に作動しているようだ。アーネスカは青色の魔力を持っていることがわかる。

 火乃木は赤色か……。まあ火乃木についてはその事情を知っているから気にするようなことではない。

「で、アーネスカは何だってうちの愚妹《ぐまい》と行動しているわけですか?」

「失礼な!」

 突然愚妹呼ばわりされたのが気に食わなかったのか、今まで黙っていた火乃木が怒りをあらわにした。

「あんたの妹だったの?」

「違うよ! 一緒に旅してる仲間だよ!」

「ふ〜ん……」

 アーネスカが口元を少しだけ吊り上げて火乃木と俺を見比べる。

「ねえねえ火乃木」

「え?」

 アーネスカは俺に聞こえないように火乃木に何かを言った。直後火乃木が顔を真っ赤にしながら何かを否定しようとぶんぶん手を振った。

「ち、ちちちちち違う違う! そんなんじゃないって!」

「じゃあ……Cまではいったのかしら?」

「だから〜なんの段階なのよ〜! そういうのやめようよ〜!」

「いや〜でもね〜年下ね〜。まあ姉《あね》さん女房ってのも案外悪くないかもよ〜」

「あ、いや……レイちゃんはこれでも二十歳《はたち》なんだけど……」

「ウソッ!?」

 アーネスカが絶句して再び俺と火乃木を交互に見比べる。

「このチンチクリンが火乃木より年上ぇ!?」

「失礼だなお前!」

 大変失礼極まりないことを初対面(正確には二回目ではあるが)で言い放つアーネスカに俺はつっこんだ。

「……まあ確かに背の低さはかわいらしさと言う意味ではアドバンテージになるけどさ……」

「だからそんなんじゃないって〜!」

 なんか俺置き去りにされてない? 二人の会話に俺が差し挟む余地がないような気がするんだけど。

「ところでさっきから気になってたんだけどさ……」

『……?』

 二人は顔を見合わせる

「火乃木は何だってそんな格好をしているんだ?」

 火乃木の格好はアーネスカと同じブリリアントブルーの法衣。いつもはいている巻きスカートではない。

「あ、この格好ね」

「アーネスカが着せてくれるって言ったからお古を借りたんだ」

 火乃木はスカートのすそをつかんでくるりと一回転した。

「どう? レイちゃん? ボクのこの格好似合う? かわいい?」

 普段は見られないから新鮮に映るのだろう。火乃木の方衣服姿は確かによく似合っている。アーネスカは金髪と青と言う組み合わせでこれも中々似合っているが、火乃木の黒髪とも十分マッチしている。

 だが、俺は素直に火乃木をほめてやるほどやさしくはない。

「似合わん」

「ひど〜い!」

「だっはははははははは!」

「むっか〜、かわいいって言え!」

「言わね〜」

「言え〜!」

「絶対言わね〜!」

「ムッカ〜! 怒るじょ! もう朝起こしてやんないぞ!」

「お〜お〜結構結構! お前に言われずとも起きてやんよ!」

「ふん! 大きく出たね。寝起きも寝相も悪くて僕のこと目覚まし呼ばわりしてたころが懐かしいね!」

「あんた達って……いつもこんなやり取りしてるわけ?」

 アーネスカが呆れ顔で言う。

「そうなんだよアーネスカァ〜。レイちゃんてばいつもボクのこといじめるんだよ! この間なんかボクの服を寝ている間に無理やり脱がそうとしたんだよ〜!」

「な、なんですってぇ!?」

「してねえよ! そんなことぉ!」

 ったく火乃木の奴突然なに言いやがる!

 とそんなことを思っている間に懐にアーネスカが飛び込んできて……。

「女の敵ぃー!」 

「グフォアッ!」

 なぜか俺はアーネスカの盛大なブローを食らうことになった。なんで? なんで俺がこんな目に……。

「フッ……見事なブローだ……俺から教えることはもう何もない……」

 と言うか初対面(いや初対面ではないんだけどさ)の人間の腹にいきなりブローかますとは……。やっぱりこいつプライベートではかなり馴れ馴れしいなきっと……。

「あ〜そうですか。あたしゃあんたに教わったことは一度もないんですけどね……」

 俺はどうにか立ち上がって二人を見た。とりあえず話を変えなければ……。

「と、とりあえずさ……俺はそろそろ実際に事件が起こった現場、つまり大聖堂行くつもりだが二人はこれからどうするんだ?」

「あたしはまだ書類整理とかが残ってるから、仕事に戻るけど……」

「ボクはレイちゃんとは別の方法で事件を探ってみる」

「そうか。じゃあ、火乃木お前はお前で精々がんばれ」

「言い方がなんか気になるな……」

「気にすんな」

「あ、ちょっとまった」

 話をさえぎりアーネスカが口を開く。

「大聖堂に行くんなら周りの目には注意しなさい。本来男子禁制のここに男がいるってだけでもある意味問題あるわけだからね。内部に侵入者がいると考えている連中からはいい目では見られないからね。最悪あんたが犯人扱いされる可能性だってあるんだから」

 ライカさんにもそんなこといわれたな。

「忠告ありがとう。気をつけるよ」

 俺はそういい残し、その場を後にした。

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